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広島家庭裁判所 昭和62年(家)239号 審判

申立人 井田カヅノ

遺言者 井田勝三

主文

申立人と亡井田勝三との間に、昭和51年7月下旬ころ成立した別紙記載の死因贈与の執行者として、吉原俊昌(住所広島市○○○区○○○町大字○○×××番地の×、明治43年5月20日生)を選任する。

理由

1  申立の趣旨

亡井田勝三がした遺言の執行者の選任を求める。

2  申立の理由

亡井田勝三は、昭和61年1月25日死亡したが、同人は、別紙のとおりの遺言をしており、該遺言は、昭和61年9月25日、広島家庭裁判所において検認を受けた。しかし、該遺言には、遺言執行者の指定がないのでその選任を求める。遺言執行者には、広島市○○○区○○○町大字○○×××番地の×、吉原俊昌が最適任である。

3  当裁判所の認定事実

一件記録及び関連事件記録(当庁昭和61年(家)第1328号遺言書検認申立事件)を総合すると、本件申立の実情として、次の各事実が認められる。

(イ)  申立人は亡井田勝三の妻である。両名の間に子はない。

(ロ)  亡井田勝三は、昭和61年1月25日、広島市○区○○町×番×号において死亡した。

(ハ)  亡井田勝三は、昭和51年7月ころ、心臓手術を受けたが、これを契機に申立人からもしものことを考えて遺産相続のことをきちんと話をつけておいてくれとたのまれたため、昭和51年7月下旬ころ、別紙記載のとおりの遺言書と題する文書を作成し、そのころ、これを申立人に交付しておいた。

(ニ)  申立人は、前記文書につき、昭和61年9月25日、当庁において遺言書検認の手続を了した。該文書には、作成日付がなく、作成者である亡井田勝三の押印もなく、遺言執行者の指定の記載もない。

(ホ)  申立人も前記文書が遺言としての効力を有することには疑問をもち、他の相続人に対し、協議によつて遺産の処理をして貰うべく協議をするよう申し込んだが他の相続人は、亡井田勝三の遺産を取得したいと考える人はなく、協議をするまでもなく申立人の一存で処理したらよいとして、協議に応じなかつた。このため申立人はやむなく本件申立に及んだ。

4  当裁判所の判断

(イ)  申立人が検認を受けた前記遺言書と題する文書は、その作成日付の記載がなく、作成者である、亡井田勝三の押印もないから、自筆証書遺言としての要件を欠くもので、遺言としての法的効力を有するものとは認めることができない。従つて、遺言が有効であることを前提とする遺言執行者選任の申立は理由がない。

(ロ)  しかし、前記遺言書と題する文書は、遺言としての法的効力はないとしても、前記認定事実に徴すると死因贈与契約の成立を証明する文書であることは明らかであると認められる。即ち、亡井田勝三と申立人との間に、昭和51年7月下旬ころ、亡井田勝三の所有する一切の財産を申立人に死因贈与する旨の契約が成立したことが明らかである。そして、死因贈与については、遺贈に関する規定が準用される(民法554条)。従つて、遺贈の執行に関する規定である民法1010条を準用して、死因贈与の執行のために執行者を選任することができるものと解される。

(ハ)  申立人としては、亡井田勝三が別紙遺言書と題する書面によつて表示している意思を実現することを希求しているのであるから、遺言執行者選任の申立が理由がないのであれば、次善の方法として死因贈与の執行者選任の申立の意思を当然に有するものと考えられるので、主文のとおりの審判をしても申立の趣旨をこえることにはならないものと解される。

(ニ)  申立人が、執行候補者として指示した前記吉原俊昌については、不適格事由は存しないから、同人を執行者に選任するのが相当である。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 増田定義)

遺言書

私共は結婚以来常に苦楽を共にし、絶えずいたわり助けて今日まで生き抜いて来た。

現在所有している一切の財産は二人の共有である。

この共有物は、私共二人の内どちらが先きに死んでも全部生残つた方の單獨所有とする。

その生残つた方が死んだときは、次の通り処分する

一 総財産を評価して、その三分の一を最後まで看護し葬送して下さつた方に贈る

二 総財産の三分の二は次の條件でお寺に上げる

全部換金して確実な銀行預金にして置き、その利子を三等分しその一を折半して春秋のお彼岸に永代経、供養料としてお寺に上げる

その一はお寺と銀行が協議して決めた社会施設に寄付する

その一は、元金に繰入れる。

これは私共がよく話合つて充分納得の上遺言するものである。

昭和 年 月 日

井田勝三

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